漆芸家の先生の工房を訪ねて

 漆芸家室瀬和美先生の工房にお伺いしました。
 先生は、蒔絵の重要無形文化財保持者(通称 人間国宝)です。
 ご自身の作品の製作の他、文化財の保存修復や、模造品の作成等、幅広くご活動なさっています。


 昨年末、友人の展覧会でお会いし、色々とお話をお伺いする中で、工房に遊びにおいでと言っていただき、今回お伺いさせていただけることになりました(→)。
 せっかくの貴重な機会なので、文化庁時代にお世話になった上司と、漆芸に興味を持つ友人達とお伺いしました。


 お話をお伺いし、作品を見せていただくことで、漆芸の奥深さ、歴史の重みを感じました。
 言葉で上手く言い表せないのですが、深い淵を覗き込むような感覚で、日本の伝統工芸に対する深い畏敬の念を感じました。
  
 漆芸の世界では、平安時代から受け継がれて来た技法が今も残っています。しかし、それらの技術も、時代の変遷とともに存亡の危機にあるそうです。


 まず、重要なのが、伝統的な技術の後継者育成です。
 そのためには、模造品の作成や、文化財の修復、買い上げ品の作成など、日常の道具の作製だけでは使用しない技法を使うような仕事が、定期的に必要だということです。
 そうすることで、その技術の保存のみならず、作製に使用する道具の存続にもつながるということでした。
 また、日本の国産漆は高価であるため、使い切れていない状況だそうです。やはり芸術作品だけでは使いきることができず、文化財建造物の修復等にも国産の漆を使う取組みが重要です。


 また、日本の伝統工芸の魅力に対する理解を求めていくことが必要です。
 日本人自身が日本の伝統工芸の奥深さを理解していないことが多いのが現状です。
 私自身も感じていたことですが、伝統工芸の世界ということ、高度で近寄りがたいというイメージを持ちがちです。しかし、作家の方のお話を聞いたり、技術の成り立ちや仕組みを知ることで、その素晴らしさがわかるとともに、見方が全く変わると思います。
 そのためにも、そのような機会を増やすことが必要なのでしょう。
 伝統工芸を専門とする国立の美術館が無いことも問題だと思います。


 そして、日本の伝統工芸についての海外発信が重要です。
 海外では、日本の伝統工芸のすばらしさを理解する体制はあるけれど、上手く海外発信できていないのではないかと思われます。これは、私達自身が日本の伝統工芸の魅力を理解できていないことにも因ると思います。


 まだあまりうまく頭の中が整理できておらず、伺ったお話のほんの一部ですが、これからの文化政策に必要だと思う視点をいくつかあげてみました。


 その後、色々な作品や、作品を作る工程を見せていただきました。
 作品のすばらしさについては、正に筆舌に尽くせない、という言葉がぴったりで、門外漢の私は筆を慎ませていただきます。
 ただ、本当に作品の持つ強い波動、オーラのようなものを感じ、数日たった今でも、思い出すとその感覚に少し身震いする思いです。


 今回お伺いするにあたり、室瀬和美さんの著書「漆の文化―受け継がれる日本の美」を読みました。
 漆の技法が丁寧に解説されているとともに、歴史や文化財保護の観点からも深い記述がされていて、室瀬さんの伝統工芸に対する思いが強く伝わってくる本です。



 このような偉大な技術が日本に存在するこということの重みを感じつつ、少しでもその発展のお役にたてるようになりたいと強く感じました。


 お忙しい中、お時間をいただきました、室瀬和美さん、息子さんの智也さんに本当に感謝です。