資生堂名誉会長 福原義春さんの講演

 大学院のフォーラムで、資生堂名誉会長の福原義春さんにお話を伺いました。

 福原さんは、企業メセナ協議会の会長をなさっており、企業による文化活動の支援に大変ご尽力されています。


日本文化が異文化を受け入れながら発展してきたというお話、また、そのためには、豊かな日本文化の存在があったからだというお話は大変参考になりました。
 今後、グローバル社会の中で、わが国独自の魅力的なコンテンツを確立し、魅力的な国家になるためにも、わが国に伝わる伝統文化を理解し、再確認することが必須であるということが確信できました。


 以下、少し長くなりますが、講演内容をまとめましたのでご紹介します。


(1)日本の文化支援についての歴史について

  歴史的に、世界で政策による文化推進の例としては、世界恐慌の後のアメリカで、ニューでシール政策の一方の柱として、芸術文化支援策がとられ、ハリウッド・ブロードウェイなどの民主導のソフトパワーを増大させ、大きな経済効果を生み、アメリカ文化の発展はその後の世界情勢にまで影響を与えた。もう一つの例としては、ドゴール時代のフランスで、文化大臣アンドレ・マルローのリーダーシップのもと、文化の地方分権化、大衆化と文化のレベルアップという、両極端の政策を実行した結果、世界中の才能がパリに集まり、他に類を見ない都市文化が形成された。
 一方、日本では国家による文化政策はほとんど存在せず、大名、商人、社寺、知的活動コミュニティ(連、組、座など)により支えられ、明治以後も財閥により支援されてきた。第2次大戦後の財閥解体の際、国が代わって支援することはできなかった。


(2)企業メセナ活動について

 このような状況の中、企業も活動の中心に「文化」をすえるべきである。これまで、企業の不祥事や投機的経済活動への批判などから、文化支援を行う企業に評価が集まっていたが、それらを統合する組織がなかったため、企業メセナ協議会を結成し、助成認定制度を作った。企業がメセナ活動を行う意義として、企業が社会に存在する理由は、社会をよくすること、人々の幸福度を上げること、社会の信頼を高めることだと思っているからである。また、メセナ活動を通じて、社員の成長が図られ、企業が社会の情報を吸収でき、会社のシステムを文化化できる企業自体への効果もある。


(3)異文化を吸収する日本文化

 日本は、奈良平安と、明治の過去2回、大量の海外文化が流入した時期があったが、いずれも異文化を受け入れて、独自の文化として発展させていった。一方、第2次大戦後は、すでに、日本文化そのものがほとんど失われてしまっていたため、流入するアメリカ文化に同化することしかできなかった。
 アニメやファッションが海外から評価を受けている「クール・ジャパン」も、日本的なものづくりへのこだわりや匠の技が背景として生み出されたものである。今は、伝統的な文化が少しでも残っている最後のチャンスであり、積極的に海外発信していかなければならない。


(4)文化を切り口とした人間中心の社会モデルを

 現在は、社会、組織、リーダーの劣化が見られ、文化による建て直しが必要とされている。人間本来の豊かさの追求、文化的絶対価値の創造が求められている。
 国民個人の文化力を統合することが、地域、社会、ひいてはセクターの文化力となる。今こそ、文化を切り口とした人間中心の社会モデルを作るべきである。